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Section 2.6 準同型定理

この節では、群論やその他の代数構造における非常に重要かつ便利な定理である「準同型定理」を解説する。

Subsection 2.6.1 可換図式

その前に、まずは「可換図式」という、数学における便利な記法について学ぼう。
図式とは、次のように写像の関係を図示したものである:
この図式が可換(commutative)であるとは、\(p\circ f=g\circ p\)が成り立つことである。中央の\(\circlearrowleft\)は図式の可換性を表す。つけない流儀もあり、本書ではそちらを採用する。
特定の写像\(f\)について存在性を言う定理の場合、主張の図式の矢印は破線で書かれることが多い:
全射性と単射性も矢印の形で表現する:

Subsection 2.6.2 準同型定理

Proof.

この証明はまず\(\psi\)を構成し、それによる同型と一意性を確認するという手順を踏む。
  1. \(\psi\)の構成.
    \(N=\ker(\phi)\)とおく。\(g\in G\)に対して、\(\psi(gN)=\phi(g)\)と定義する。
    well-definednessを示す。\(n\in N\)を任意にとると、
    \begin{equation*} \phi(gn)=\phi(g)\phi(n)=\phi(g)1_H \end{equation*}
    なので、\(\psi:G/N\to H\)はwell-definedである。
    準同型であることを言う。
    \begin{equation*} \psi((gN)(hN))=\psi(ghN)=\phi(gh)=\psi(gN)\psi(hN) \end{equation*}
    となる。
    最後に可換性を言おう。\(\phi=\psi\circ\pi\)を示せばよい。\(g\in G\)をとると、\(\pi(g)\)はある剰余類\(gN\)に送られる。定義より\(\psi(gN)=\phi(g)\)だから、\(\psi(\pi(g))=\phi(g)\)となる。
  2. 同型\(\mathrm{Im}(\phi)\cong G/\ker(\phi)\).
    全単射性を示せば、Proposition 2.4.5より、これは同型になる。
    \(\psi(gN)=1_H\)なら\(\phi(g)=1_H\)なので\(g\in N\)であり、\(gN=N\)\(G/N\)の単位元だから、これは単射。\(g\in G\)なら\(\phi(g)=\psi(gN)\)なので、\(\mathrm{Im}(\phi)\subset \mathrm{Im}(\psi)\)である。同様に、\(\mathrm{Im}(\psi)\subset \mathrm{Im}(\phi)\)である。\(G/N\to \mathrm{Im}(\psi)\)は定義より常に全射だから、\(G/N\cong \mathrm{Im}(\psi)=\mathrm{Im}(\phi)\)である。
  3. 最後に一意性だが、任意の\(\psi\)\(\psi\circ\pi=\phi\)なら\(\psi(gN)=\phi(g)\)と値が定まるので、言うまでもなく一意的である。

Remark 2.6.2.

準同型定理の意味するところは要するに「\(G\to H\)があれば、\(H\)の中に\(G\)の部分構造で同型なものが存在し、それが\(G/\ker(\phi)\)と書ける」というところである。
(\(i:\mathrm{Im}(\phi)\to H\)\(\mathrm{Im}(\phi)\)の元を\(H\)の元とみなす包含写像(inclusion))
このように、対象の「内部に同型な部分構造を見出す」ことを数学の言葉で埋め込み(immersion)という。この例では、\(G/\ker(\phi)\)を、同型\(\psi\)によって\(H\)に埋め込んでいると考えられる。
加えて、準同型定理そのものの解釈を述べる。\(\phi\)で送ると消える(\(1_H\)に行く)元のことを\(\ker(\phi)\)と呼んだのだったが、これは\(\mathrm{Im}(\phi)\)上ではすべて消えており、核の元に関する情報が押し潰されていると言える。一方で\(G/\ker(\phi)\)でも核の元は消えている。「\(\phi\)で送ること」と「商をとること」という、二つの異なった消し方をした群どうしが同型であるというのがこの定理の主張である。