Skip to main content

Section 2.7 コラム:群とトポロジー

まず位相空間の定義をする前に、微積分の話をしよう。
\(u\lt x \lt v\)を満たす\(x\)\((u,v)\)で表し、これを開区間と呼ぶ。同様に\(u\leq x \leq v\)\(x\in [u,v]\)で表し、閉区間とよぶ。

Definition 2.7.1.

\(y=f(x)\)\((u,v)\)で定義された関数とし、\(a\in (u,v)\)とする。関数\(y=f(x)\)\(x=a\)連続(continuous)であるとは、任意の実数\(q\gt 0\)に対して実数\(r \gt 0\)が存在して、\(x\in (a-r,a+r)\subset (u,v)\)であり、\(|f(x)-f(a)|\lt q\)となるときをいう。
非常にわかりにくい定義だが、次のようにグラフを書いてみるとよい:
今の定義は、\(x\)\(a\)に近づくとき、\(f(x)\)\(f(a)\)に近づくことを不等式で表すものである。 \(x\in (a-r,a+r)\)とはそれすなわち
\begin{equation*} |x-a|\lt r \tag{1.1} \end{equation*}
であり、「\(x\in (u,v)\)ならば\(|f(x)-f(a)|\lt q\)」は、任意の、どれだけ小さくとってもよい実数\(q\)に対して、(1.1)をみたす\(r\)を見つけてこられることを意味する。 したがってこの定義は、\(x\)\(a\)の差が非常に小さければ、それに応じて\(f(x)\)\(f(a)\)の差も非常に小さくなるというふうなことを、「近づく」とかいう曖昧な言葉を使わずに定義したものである。このような議論を「イプシロン・デルタ論法」という。
具体例を見よう。

Example 2.7.2.

定数\(c\neq 0\)に対し、\(y=cx:(-\infty, \infty)\to (-\infty, \infty)\)の連続性を示してみよう。任意の実数\(q\gt 0\)に対して実数\(r\gt 0\)を選び、\((a-r, a+r)\in (-\infty, \infty)\)であり、\((a-r,a+r)\)\(|cx-ca|\lt q\)であるようにすればよい。積で絶対値はかわらないから\(|cx-ca|=|c|\times|x-a|\lt q\)となればよいことになる。\(r=\frac{q}{|c|}\gt 0\)とすれば、仮定より\(|x-a|\lt r\)なので、\(|cx-ca|=|c|\times|x-a|\lt |c|r=q\)である。
さて、関数の連続性とはさしづめ「関数のグラフが繋がっていること」と見てよい。これは定義からわかるように、実数を任意にとることで小ささを表現するという、実数体でしか意味をなさない定義の仕方をしている。一般の集合や体に大小関係\(\leq\)は定義されないわけだから、これを任意の集合に一般化できないか?というのが位相空間を考える動機である。
では、位相空間の定義をしよう。

Definition 2.7.3.

\(X\)を集合とする。\(X\)上の開集合系(open set system)あるいは位相(topology)とは、\(\mathscr O\subset \mathcal P(X)\)が次の条件を満たすことをいう:
  1. \(\emptyset, X \in \mathscr O\)である。
  2. \((U_i)_{i\in I}\)\(\mathcal P(X)\)の族なら、\(\bigcup_{i\in I}U_i \in \mathscr O\)である。
  3. \((U_i)_{i\in I}\)\(\mathcal P(X)\)の族で\(I\)が有限なら、\(\bigcap_{i\in I} U_i\in \mathscr O\)である。
これもなかなかにわかりにくい定義である。だが、先ほど言ったとおり位相空間の理論は\(\mathbb R\)\(\mathbb R^n\)での連続性を抽象化しているため、対応する現象を紹介しつつ話を進めていこう。定義での\(\mathscr O\)として、任意の開区間の和で得られる集合全体を採用する。
まず(1)の条件だが、これは\(\mathbb R, \emptyset\)が開区間になりえることを言っている。空集合の場合は\((a,a)\)とすればよい。実際\((a,a)\)\(a\lt x\lt a\)を満たす\(x\)のことだが、そんなものはない。
実数全体は少しトリッキーだが、\((-\infty, \infty)\)とすればよい。
次に(2)の条件であるが、これは定義通りであり、確認は易しい。
最後に(3)の条件について説明する。(3)は開区間有限な共通部分が再び開集合であることを言っている。これは次の解析的な定理の反例からくる事項である。証明は行わない。
なお、(開/閉)区間\(I\)がある有限の実数により\([a,b]\)\((a,b)\)と表される時、それは有界であるという。
この定理は開区間については成り立たない。例えば\(I_n=(0,\frac{1}{2^n})\)などがある。極限についての知識がなければ「空集合なんだろうな」とだけ思っていればよい。