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Preface Preface

テトリスを様々な側面から代数的に解析する諸研究は、その興味深さとは裏腹にまとまった参照先が存在せず、前提知識も必須であり、敷居が少し高いのが現状である。 本書はそのような代数学の基礎と、そのテトリスへの豊かな応用を集積し、今ある巨大な知識格差を是正することを目的とし、必要な理論を体系的に学ぶことができるオンライン教科書である。
特にパリティ追跡理論(PTT)は、一手ごとに刻々と変化するパリティを「群作用」という形でモデル化し、さまざまな考察を数学という強固な後ろ盾のもとに行えるようにした重要な理論である。
加えて本書は、可換環論を用いた領域のタイリング可能性の判定についても解説する。パリティ追跡がパリティの「動的」な変化をとらえるものであったのと対照的に、この理論ではさまざまなミノに対する地形の変化を扱いやすい形で書き、「汎函数」とよばれる写像と比べることによって充填可能性という「静的」な性質を証明する。 パリティ追跡の基礎理論は完成していると言っても差し支えないと思うが、こちらの方は手法が純粋数学に近い分、未開拓の結果や一般化がそれこそ巨大な氷山のようにどっさりと残されているというのが著者の所感である。元に、未解決問題がいくつも提起されている。
本書の目標はこの2つの理論を、必要な基礎知識を丁寧に補ったのちに解説することである。具体的には集合論、群論、可換環論、圏論、順序集合の一般論を説明し、第II部よりテトリスへの応用を論じる。他を参照しなくとも本書のみで進められるように(Self-contained)解説する。
第I部では読者により広域な視点を与えるため、のちに必要なものだけに絞って解説するようなことはせずに、各理論の一般論を通常の数学書と同等程度で展開する方針をとった。 そのぶん重くなり過ぎないよう、例や命題を多数紹介することは避けた。書いている途中で数学畑の筆者は数学徒の血が騒ぎ、各章に1つ、現代数学とその章の内容との関わりを紹介するコラムを設けた。 扱う内容は「コラム」どころかどれもこれも本書のレベルを超えうるものばかりだが、その内容を通して数学の面白さを知っていただければ著者の至上の喜びである。第I部でのみ各章の終わりに演習問題をつけた。 簡単なものが多いが、少し考えを要するものやコラムの内容が必要なもの、数学の専門知識を要するものも出題した。それらにはそれぞれH,C,K (Hard, Column, Knowledge)のアルファベットをつけて無印の簡単な問題と区別した。 無印は全てとは言わずとも、8, 9割は解けるようになっていただきたいものである。難易度調整として、難問にはほとんど誘導をつけたため、実際にはあまりHardではない可能性がある。
各問題には略解(Answer.)かヒント(Hint.)を設け、読者の理解を助けるようにした。なお全ての解答とヒントは、数学書から問題を引っ張ってきた著者がその場で思いついて書くとかいうキチガイ執筆メソッドを採用しているため、万が一にも間違っている可能性が存在することをこの場を借りて詫びておきたい。
研究では英字論文を参照することも稀にあるので、各用語には英語訳をつけた。
第II部では、Ogonek:Macron氏のnoteの行間を埋める形でパリティ追跡理論を解説し、つづけてタイリングの理論を解説する。
最後に、Ogonek:Macron氏に著者の大雑把極まりない原稿をお読みいただき、多数のご指摘・修正を賜った。この場を借りて感謝の意を表したい。