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Section 1.5 集合の濃度

\begin{equation*} 「自然数全体の個数と偶数の個数は等しい」 \end{equation*}
厳密に言えば少しだけ不正確な記述ではあるが、これは集合の濃度の立場からすると確かに同じと言える。集合の濃度は元の個数を一般化した概念であり、それによって「無限の大きさ」のような概念を厳密に扱うことを可能にする。
この節では濃度の概念について扱う。ただし、本書では濃度の概念そのものを定義せず、濃度の比較だけを行う立場をとる。 濃度を考える際に注意することは、「集合の集まりは集合ではない」というものである。 これはすぐ後に定義する冪集合のようなものとは違い、数学的に定義可能な集合の全てを集めてきたような状況である。証明は解説しないが、この集まりを集合として考えようとすると矛盾が生じる。これを「ラッセルの逆理」という。 この節で同値関係("同値変形"ではない)というものを学ぶが、集合全体の集まりに同値関係を導入し、しかるべき同値類を濃度として定義するわけにもいかないので、もっと込み入った手順が必要となることは明白である。 「順序数」とよばれる概念を定義することにより濃度の概念を定義することはできるが、この本では不要なのでそれには立ち入らない。順序数を用いた定義を含め、このラッセルの逆理を解消するテクニックについては、著者のnoteを参照していただきたい。

Definition 1.5.1.

  1. 写像\(f:A\to B\)単射(injective)であるとは、\(f(a)=f(b)\implies a=b\)が成り立つことである。 \(f\)全射(surjective, onto)であるとは、任意の\(b\in Bに対して、f(a)=b\)となるような\(a\)が存在することである。逆像(inverse image)\(f^{-1}(b):=\{a \in A, f(a)=b\}\)が空集合でないと言い換えてもよい。 全単射(bijective)であるとは、全射かつ単射であることをいう。
  2. 集合\(A,B\)について、単射\(A\to B\)が存在するとき、\(|A| \leq |B|\)と定義し、Bの濃度はAより大きいという。\(B\)が無限集合で\(A\)が有限でも\(|A| \leq |B|\)と定義する。
  3. 全単射\(A\to B\)が存在するなら\(|A|=|B|\)と書き、AとBの濃度は等しいという。
  4. \(|A| \leq |B|で|A|\neq |B|\)なら\(|A|\lt |B|\)と定義する。
次に、濃度について成り立つ基本的な性質を紹介する。証明は