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Section 1.6 第1章の演習問題と略解

Exercises Exercises

1.

\(\mathbb Rから\mathbb R\)への全単射の例を3つ挙げよ。
Answer.
  1. \(\displaystyle y=ax+b\)
  2. \(\displaystyle y=x^{2n+1}\)
  3. \(\displaystyle \sinh (x)=\frac{e^x+x^{-x}}{2}\)

2.

全射、単射の定義を「送られる」とか「送られてくる」というような言葉を使って表現せよ。それと全射、単射の定義を照らし合わせ、形式的な定義で何を言おうとしているのかを掴め。
Answer.
単射は、値域における2つの元が等しくないならば、それぞれ違う元から送られてきていること。
全射は、値域の元を任意に取ると、それに送るような定義域の元が存在すること。

3. H.

\(f:A\to B\)が全単射であることと、\(f\)が逆写像\(g\)を持つ(\(g\circ f=\mathrm{id}_Aかつf \circ g=\mathrm{id}_B\)、なお\(\mathrm{id}\)は入力と出力が一致する写像)ことが同値であることを証明せよ。
Hint.
同値を示す問題は、まず落ち着いて\(\implies\)\(\impliedby\)それぞれの場合に、使える仮定と示すべき目標点を明確にすることから始めよ。
この場合、\(\implies\)側の仮定は単射であること(\(f(a)\neq f(b)\implies a\neq b\))と全射であること(\(\forall b\in B, \exists a, f(a)=b\))である。示すべき目標は合成写像が元\(a\)を動かさないことだから、まず具体的な元を\(A\)から取って考えてみればよいであろう。逆も同様にして考えよ。
Answer.
  1. \(\implies\).
    \(a\in A, b\in B\)をとる。\(g\)として\(f^{-1}\)を選ぶ。全射性より
    \begin{equation*} (g\circ f)(a)=f^{-1}(f(a))=\{x\in A; f(x)=f(a)\}=a \end{equation*}
    となり、\(f\)は単射だから\(g\circ f=\mathrm{id}_A\)である。次に\(f(f^{-1}(b))=b\)を示す。\(f\)は全射なので\(f(a)=b\)なる\(a\in f^{-1}(b)\)が存在し、\(a\)は単射なので\(a\neq a'\in f^{-1}(b)\)なら\(b=f(a)\neq f(a')\)である(単射性の対偶)ため\(a=a'\)である。よって\(f^{-1}\)はただ一つの元からなり、問題の合成は\(\mathrm{id}_B\)に等しい。
  2. \(\impliedby\).
    まず\(g\circ f=\mathrm{id}_A\)とする。\(a,a'\in A\)をとると\(g\circ f(a)=g\circ f(a')\)なら
    \begin{equation*} \mathrm{id}_A(a)=a=a'=\mathrm{id}_A(a') \end{equation*}
    なので単射性がいえる。\((g\circ f)^{-1}(b)=\{x\in B; \mathrm{id}_A(x)=a\}\)だが、\(\mathrm{id}_A(a)=a\)なのでこれは明らか。
    逆もまったく同様である。

4.

写像\(f:A\to B\)を考える。任意の部分集合\(S\subset B\)について、
  1. \(A:=f^{-1}(f(f^{-1}(S)))\)\(f^{-1}(S)\)が等しいこと
  2. \(f\)が全射であることと、\(f(f^{-1}(S))=S\)であることが同値なこと
を証明せよ。
Answer.
    1. \(\subset\).
      \(x\in f^{-1}(f(f^{-1}(S)))\)をとる。
      \begin{equation*} A=\{a\in A;f(a)\in f(f^{-1}(S))\subset S\} \end{equation*}
      となり、\(f(a)\in S\)なので、
      \begin{equation*} A=\{a\in A;a\in f^{-1}(S)\} \end{equation*}
      である。仮定より\(x\in f^{-1}(S)\)なので、題意が示された。
    2. \(\supset\).
      \(x\in f^{-1}(S)\)をとる。(i)より左辺\(=\{a\in A;a\in f^{-1}(S)\}\)なので\(x\in f^{-1}(S)\implies x\in A\)である。
    1. \(\implies: f\)が全射なら\(s\in S\)に対して\(a\in Aがあり、f(a)=s\)である。よって\(s\in f(f^{-1}(S))\)である。逆に\(s\in f(f^{-1}(S))\)に対しても\(f(a)=sとなるa\in A\)があり、\(a\in f^{-1}(S), f(a)=s\in S\)なので等号がわかる。
    2. \(\impliedby: f(f^{-1}(S))=S\)は空でないと仮定してよい(空なら命題が意味をもたない)。\(f(\emptyset)=\emptyset\)にしかなり得ないことを考えると、逆像が空ではないので全射性がわかる。

5.

well-definednessが問題になる状況を挙げよ。
Answer.
例えば\(f: \mathbb Q \to \mathbb Z\)(\(\mathbb Z\)は整数のこと)で、有理数\(\frac{a}{b}\)の分母と分子の和を返す写像として定義したいとしよう。\(\frac{1}{2}=\frac{2}{4}=\frac{3}{6}=\cdots\)なので、この\(f\)は1つの有理数に対して無数に像ができることになる。これはwell-definednessが問題になる例の一つである。

6.

\(|A|=|A'|かつ|B|=|B'|\)ならば\(|A\times B|=|A' \times B'|\)であることを示せ。
Hint.
全単射を構成することを考えよう。直積というのは順序対の全体であることを思い出して、命題2.2.2の証明での構成を参考にせよ。
Answer.
\(a\in A, b\in B\)に対して、\(A\times B\)の元は\((a,b)\)という形になっているのであった。仮定より、全単射\(f:A\to A', g:B\to B'\)が与えられている。 \(\pi: A\times B\to A\)\((a, b)\mapsto (f(a), g(b))\)で定義すれば、これは明らかに全単射である。実際、\(\pi(a,b)\neq \pi(a',b')\)なら\((f(a),g(b))\neq (f(a'),g(b'))\)であり、 \(f,g\)は単射でもあるので\(\pi\)の単射性が成り立つ。全射性も同様にして、\(f,g\)が全射であることから、\(\pi\)の逆像が空になる元は存在しないので全射性も言える。

7.

仮定\(\implies\)結論 という命題において、仮定が誤っているならば、数学で通常用いる論理体系では結論は常に真である。例えば部屋にスマホがあるなら、その電源は切れているという命題を考える。 この状況で仮定が偽、つまり部屋にスマホが存在しない状況を考えれば、電源の入ったスマートフォンは部屋に存在しない。したがってこの命題は真となる。 この現象を「空虚な真」と呼ぶ。これを使って、「空集合が任意の集合の部分集合である」ことを証明せよ。
Answer.
空集合から元は取れないので、部分集合の定義である
\begin{equation*} x\in\emptyset \implies x\in A \end{equation*}
という論理式は空虚な真により常に真である。