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Section 2.2 環, 体の定義

ここでは、群に演算を加えた「環」と、その特殊な場合である「体」を定義する。群、環、体それぞれに毛色の全く異なった理論が展開されており、代数学の三本柱をなす概念となっている。

Definition 2.2.1.

  1. 空でない集合\(R\)環(ring)であるとは、\(R\)上に2つの演算が以下のように定められているときをいう。
    1. \(R\)は加法\(+\)について可換群をなす。
    2. 乗法について結合法則が成り立つ。即ち、任意の元\(a,b,c\in R\)に対して\(a(bc)=(ab)c\)である。
    3. 分配法則が成り立つ。つまり、\(a(b+c)=ab+ac\)である。
    4. 乗法の単位元が存在する。
    乗法の交換法則(\(ab=ba\))の成り立つような環を可換環(commutative ring)という。環の定義は乗法逆元の存在を規定していないことに注意せよ。
  2. 可換環\(K\)\(0\)以外の乗法逆元を持つならば、\(K\)体(field)という。
    \(R\)\(0\)以外の乗法逆元を持つなら\(R\)可除環(division field)または、「不完全な体」のニュアンスをもって斜体(skew field)という。 この辺りには流派が存在するが、この本では断らない限り、環は常に可換なものを指すとしよう。したがって単に「体」というと、可換環で乗法逆元をもつ、今定義した普通の体を指す。
明らかであるが、\(\mathbb{Z, Q, R, C}\)は可換環になる。

Example 2.2.2. 自明な環.

\(A=\{0\}\)とする。通常の乗法と加法により、\(A\)は環になる。これは単純な集合であり、特別な構造を含んでいないので、自明な環あるいは零環とよばれる。 環の乗法単位元を\(1\)と書くと、\(A\)では\(0=1\)である。

Example 2.2.3. 二元体.

\(\mathbb F_2:=\{0,1\}\)とおき、演算をMod 2で考えると、これは体になる。これは二元体やブール代数(Boolean algebra)とよばれる。 将棋やチェスの盤面など、オン(1)とオフ(0)の状況での処理を高速化するテクニックであるビット演算は、この体での数値計算を指しているといってよい。 配列を用いたイテレーションでは各要素を1つずつ回っていかなければならないのに対して、ビット演算は1行単位で処理できるのが速度の秘訣である。 チェスや将棋のエンジンなど、木探索の0.1%の速度差がEloレーティングに直結する界隈では基本中の基本となる技術である。
上の例は2つの元を持つ体だったが、ある整式を考察することにより、素数個の元を持つ体を定義できる。まずはユークリッドの互除法から紹介しよう。

Proof.

商とあまりの関係は式で表せることを思い出そう。つまり、\(q\in \mathbb Z\)があり、
\begin{equation*} a=qb+r \tag{$a\leq r\lt b$} \end{equation*}
である。\(d\in \mathbb Z\)を正の数とする。\(d\)\(a,b\)のいずれをも割り切るなら、\(a-qb\)も割り切る。よって\(d\)\(r\)を割り切る。よって、\(\mathrm{GCD}(a,b)\leq \mathrm{GCD}(b,r)\)である。逆に\(d\)\(b,r\)を割り切るとすると、\(d\)\(qb+r\)を割り切り、よって\(a,b\)を割り切る。これで\(\mathrm{GCD}(a,b)=\mathrm{GCD}(b,r)\)が言えた。
ユークリッドの互除法は、たとえば\(7x+5y=\mathrm{GCD}(a,b)\)を満たすような整数解を求めよ、という典型的な「Bézout(べズー)方程式」の解放法に応用ができる。
この場合では、
\begin{equation*} 7=5+2 \end{equation*}
\begin{equation*} 5=2\times 2+1 \end{equation*}
なので\(\mathrm{GCD}(7,5)=1\)であり、
\begin{equation*} 1=5-2\times 2 = 5-2\times(7-5) \\ = 5-2\times 7+2\times 5 \\ =3\times 5+(-2)\times 7 \end{equation*}
となり、\((3,-2)\)が解の一つであるといえる。ユークリッドの互除法によって次の定理を得る。
整数\(a\)を素数\(p\)と互いに素であるようにとる。系を\(a\)と素数\(p\)に対して適用し、等式\(ax+bp=1\)を得る。これを\(\mathbb Z\)から\(\mathbb Z/p\mathbb Z\)へ自然な写像で送ることにより、\(ax = 1\)となる。これは整数\(a\neq 0\)に対して\(x\)がその乗法逆元であることを示している。これによって「有限体」の概念を定義できる。

Definition 2.2.7.

\(\mathbb Z/p\mathbb Z\)は位数\(p\)の体である。これを有限体(Finite field, Galois field)という。